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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

と、叱るように叫んだが、ふと慌てて眼をそらした。

眩しいほどに白く、なめらかに豊満な、美しい双のまるみが、泡立つ水の中へ沈んでゆくのが見えた。

「静かにやって呉れ」若者は片手をあげた。

船頭は、若者の手の動くほうへ、こんどはゆっくりと櫓をつかいながら、「おそろしく息がお続きなさいますね」と感じいったふうに云った、「二百息、いや三百息はたっぷりだろうが、本当に魚をお掴みなさるんですか」

「まるで鵜のようだ」

「どうもその、どういうことなんだか」

片手で汗を拭いて、さもげせないとでもいったように、船頭は首を振った。

「こないだはお屋敷の、屋根へおあがんなすって、ましらの如くってんですかね、お庭の榎の枝から、ひらひらっと飛び移って、ひらひらっとあの高い二階の屋根へあがったと思うと、例のあの、ほっほう、てえ梟みてえな声をおだしんなって、それからまたひらひらっと屋根を走って、榎の枝へ飛び移って、見えなくなってしまったんだが、どうもその早いのと身の軽いのにゃあ仰天しましたぜ」

若者は手を左へ振った。

「上のお嬢さんはばかにしんとして、あっしらなんぞにゃあ、怖いくらいなんだが、こちらはよっぽどおてんばでいらっしゃるんですね、おくにでもこんなですか」