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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
すると、花世はすでに向うがわへいっていて、そうして、向うがわから舟ばたを引っぱったらしい、その舟が、とつぜんぐらっと向うへ傾いた。
わっと声をあげて、男たちは一方へ寄った。向うへ転覆すると思って、本能的に反対がわへ重心をかけたのである。ところが、花世はそれを予期していたのだろう、かれらが一方へ寄ったとたんに、いちど引っぱった舟ばたを、逆に突きあげた。
重心の移るところへ反動をつけられたから、舟が転覆するまえに、乗っていた男たちがころげ落ちた。船頭は舟といっしょにひっくり返った。
「やった、うめえ」
こちらの船頭は、足踏みをして叫んだ。
「その意気だお嬢さん、そっちのもついでにやっちめえ」
向うの、もう一艘の男たちは、総立ちになった。
そのとき大助は、ふとふり返った。
うしろで、人の呼ぶ声が聞えたからだ。見ると、佃島の下をまわって、小舟に助け櫓をかけたのが、舳先で水を切るように、すばやくこっちへやって来る。
「――和助だ」
彼は手をあげてみせ、だがすぐに、花世のほうへ眼を戻した。
残った釣舟の男たちは、持った竿で、むやみに海面を叩いていた。みんな立って、うろうろとそちらこちらを叩きまわす。