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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

「ほかの吉田さんをつかめばよいのに、なんだってボクをつかまえたんだろうね」

「ブツブツ云わないでよ」

「云いたくなるワケがあるんだよ。ボクの方にもね」

女はだんだん淋しい道へと左近の腕をとって急いで行く。さてはやッぱりこうして女に淋しい所へ導かせて殴ろうとの算段かなと左近は考えたが、女の顔を見るといかにも心配そうな顔で、人をだましているような顔ではない。オカの女、と云っても海には女がいないが、したがってつまり女というもの全体が海の男には見当がつかない。パンパンだか令嬢だか女全般について区別がつかないのである。しかし、この女のミナリは上等のようだ。香水の匂いもする。益々パンパンだか令嬢だか区別がつかないが、ただ一つ区別のつくことは西江葉子のような清楚な娘ではないということだけだ。葉子よりは年上らしいが、これまた海の男が目をみはるような美人であることはたしかである。

「ここが私のウチよ。だまって!」

女は前後を見まわして人の姿がないのを見とどけると、門のクグリ戸をあけて左近を先に押しこんだ。住田嘉久馬の邸宅ほどではないが、これも立派な邸宅だ。

「ここで待っててちょうだい。