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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

美人スパイ

それとも用心棒のつもりだろうか。泥棒の用心棒とは珍しい。

アルジは彼を残して姿を消したが、十分ほどして現れて、他の者を退席させた。

「キミの話をきこう」

左近と向い合ってイスに腰を下した。左近は思わず苦笑した。

「あんまりバカバカしい話で二度とは云う気がしませんよ。警察でまとめて申しましょう」

「警察には知らせておらぬ。その女に心当りがあるからだ」

美人スパイ

アルジは左近の話をきき終って、考えこんだ。案外物分りはよいらしく、左近の話を信用してくれた様子である。

「キミはその女の顔を覚えているね」

「覚えていますとも」

「二十一二の美人だろう」

「ま、そうですが、泥棒ならどうしてボクをつれてきたのでしょうね」

「それは賊の正体を知らせるためさ。賊が誰かと分れば警察に知らせないのを知っているからだ」

左近は感服した。どうやらワケがあるらしい。あの女に何かを盗まれても仕方がないワケが。どうもしかし悪いめぐり合せで女のお見立てにあずかったのがバカバカしい。

「あなたが吉田サンですか」

「なぜだ」

「ボクに吉田サンと呼びかけましたよ、その女が」

「キミがイギリス人ならミスター・チャーチルと呼びかけたかも知れないさ」