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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

そして玉子もその秘密だけは自発的に語ることを言明していたのである。玉子の役割は奇怪であるが、また哀れでもあったのだ。権力や金力の陰に否応なく踊らされている哀れな一ツの花である。葉子はなんとなく玉子に同情をもつ気持になった。

二時間ほどの時間がすぎて夕暮れになってきた。夕食の仕度のせいか、オバサンと女中は葉子に暫時の看病をたのんで去った。葉子が玉子の枕元につきそっていると、玉子ははじめて口をひらいて、

「自業自得ね。罰が当ったのよ」

「なんの罰?」

「数々の悪業の罰」

「アナタがスパイだということでしょう」

「スパイ? 私が」

玉子はクックッ笑ったが、

「そうそ。白雲荘の連中が夏川さんにそう云ったのね。まさかスパイじゃないわ」

「じゃア、どんな悪業の罰?」

「たとえばアナタをここへつれてきた罰。自慢のできる目的でつれてきたワケじゃないのよ」

「どんな目的?」

「そこまでは云えないわ」

「アナタは住田さんの奥さん?」

「まア、そうね。オメカケというのが正しい表現らしいけど」

「住田さんをスパイしてるんじゃないの?」

「なんのために?」

「私がそれをおききしたいのよ」

「日陰者のオメカケだから住田に愛情なんかもたないけど、スパイでないのも確かよ。