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ふくいんさつじんじけん
復員殺人事件
「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页
卒業間際にモト子との情事が発覚したが、この時、由之が石頭の教え子のために奔走し、無事学校も卒業させ、二人を結婚させて、朝鮮で武道教師をしている友人に当てゝ紹介状を持たせて海を渡らせたのである。当時は就職難の時代で、故郷を追われた重吉が自活するには、さしずめ海を渡る以外に法がない。重吉は京城で巡査になった。
五年ぐらいは平和であったが、やがて重吉は龍教というものに凝りだして、巡査をやめてしまった。龍教といっても、殆ど知る人もない怪しげなもので、裏長屋の片隅の狐憑きのような婆さんが、気違いじみた僅かな信徒を相手に言いたてた咒術のようなものだ。御神体が孔子だという。このへんが日本と大いに違っている。重吉は巡査をやめて、龍教の信徒総代、教祖の参謀みたいなものになってしまった。
それからは、モト子にとっては忍苦の年月であったが、日毎の食事にも窮し、重吉と子供をすてゝ、故郷へ逃げて帰ってきた。渡鮮して十年目のことであった。それから半年、二児を抱えては重吉もさすがに窮して、これも故郷へ舞い戻ったが、意気必ずしも銷沈せず、二児と共にかゝえてきた荷物といえば、石頭に似もやらず、三十冊ほどの孔子に関する書物だけであったというから、その意気や壮と申すべきところかも知れない。