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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

重吉はクッタクがなかった。彼は自分の家などへは戻らなかった。停車場から、まっすぐ恩師倉田由之先生を訪い、爾後の生活を托したのである。由之はすでに武道教師をやめて、網元、船元であり、新興実業家でもあれば、顔役でもあった。重吉の働く仕事はいくらもあったが、重吉はみんな辞退し、下男奉公を志願した。彼は快活であり、暢気であった。モト子も元の枝へ戻って、倉田家の女中となった。重吉は忘れたように、龍教のことなどはオクビにも出さなかった。

重吉はクッタクなく快活であったが、やること、為すこと、昔の石頭の豪傑時代さながらの粗野、無礼、それが病弱で腺病質の公一と、事毎に対立した。

重吉は手洟をかむ癖があった。その手で米をといだりするというので、公一は重吉の挙動から目をはなさず、飲食物の支度に手をふれることを禁じた。もし手をふれるのを見たりすると、彼は食事をとらなかった。そして、血の気の失せた顔に青筋を立てゝ重吉に叱責面罵を加えるが、そういう時に、重吉はエヘラ/\笑いながら、クルリとふりむいて、ブッと大きな屁をたれる。まったく重吉の屁は神技に属する性質のもので、いつでも、思う時に屁がたれられるような奇妙な体質であった。