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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

ただ出征前の安彦さんの正確な身長が分ると、ニセモノか、ホンモノか、それだけがハッキリ決定するのですよ。人間の身長が縮まることはないからです。いくら行軍々々でもスリきれません」

美津子の返事はなかった。

「お嬢さんの本箱に甲虫殺人事件がありましたね」

「ええ」

「探偵小説がお好きと見えますね。本格的な推理小説がそろっているので、驚きました」

「私、探偵小説を書いてみたいと思っていました。安彦兄さんも、探偵作家になりたいと言っていたのです」

「ホホウ。なるほど安彦さんが日記の包みにバイブルの文句を示して出征したあたりには、たしかに探偵小説がこもっていますよ。お嬢さんが探偵小説をお好きなら、これほどたのもしいことはありません。お嬢さんの推理をきかせていただきたいのです」

美津子はアッサリうなずいた。

「私はこう思ったのです。でも、新聞記事を材料にした推理ですから、的外れかも知れません。安彦兄さんはニセモノなんです。手型をすりかえた人がいるのです。こんなことは家族以外にはできません。私たちに催眠薬をのませたのは、その手型を奪い返す必要からではないでしょうか。手型はホンモノと同じ紙質のようでしたが、疑って調べれば、それと分る偽作のあとが有るのではないでしょうか。