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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「たかが紙キレというわけにいかなくなったな。色々と失せ物のある事件だね。すると、安彦君が一ヶ月ほど前に家族の誰かに会っているのは明らかだが、家族の中に、安彦氏に会ったと名乗りをあげた者はいないね。会ったとすれば、誰だろう。そして、その人物は、なぜ、それを黙っているのだろう」

「重吉だけですね。とにかく、熱海で見かけた、と言明したのは。そして、彼は安彦氏を風呂へ入れてやるような、行きとどいたことをしていますな」

三村刑事はこう言ったが、別に重吉に容疑をかけているような語調ではなかった。

大矢主任は再び考えこんでしまったが、やがて顔をあげて一同を見廻して言った。

「かりに、安彦君の会った家族は重吉だったとしてみよう。ところが、重吉は、あの安彦はニセモノだと断言している。なぜなら、身長が六分違うというのだね。身長が六分違うということが事実とすれば、ヌキサシならぬ証拠である。しかし、これを明確に証拠立てる手がかりがない。重吉自身が指摘するハカリのシルシを除いては、ね。安彦君の大学は焼けたために、又、連隊司令部は解散したために、いずれも体格簿が失われている。我々が今持っているのは中学五年春の体格検査表だけであるが、これはその後に延びる可能性があるから証拠にならない。