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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

夏枯れで貰いも不足していたというし、遊興の味も覚えたというから、六百五十五円持っているのがフシギかも知れない」

大矢捜査主任はボンヤリと考えこんだ。

話しずきの八雲医師は、相手かまわず、ほかの刑事に向って、

「どうです。そろそろ、容疑者がうかんできたでしょうが。主任の公認だから、教えてくれたまえよ」

話しかけられた刑事が頭をかいて、

「イヤ、あいにくですが、まったく捜査行き詰りです。こんな景気の悪い話をおきかせしたくないんですがネ。新聞の筆法だと、捜査陣、焦燥の色濃し、となりますな」

「私は又、相当クッキリと容疑者が浮んでいるものと思っていましたよ。それをきかせてもらうのをタノシミにやって来たのだが」

八雲医師は、ちょッと意外の顔だった。

巨勢博士がそれを面白そうに、

「八雲先生はどの点から、容疑者がすでにクッキリ浮んでいると御想像でしたか」

「イヤア、素人考えですよ」

八雲医師は高笑いした。

「あなたのような天才的な名探偵に、はずかしくって、何が言ってあげられますかね。もっともね、私の商売は医者だが、マア、催眠薬の問題ネ、あれは何薬を使っていましたか。報告はありませんか」