轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

彼には右手がなく、左足がなかった。つまり、定夫の曰く丹下左膳現代版なのである。おまけに、丹下左膳は片目であるが、彼は両眼が失明し、砲弾の破片に片アゴをもぎとられ、鼻はつぶれ、言葉を喋ることまで、できなかった。

この現代版丹下左膳は、なれない左手で倉田由之と書いたものを駅員に示し、タクシーで、この玄関まで乗りつけたのだが、その変り果てた風貌から、家内の誰一人、これを安彦と認定することが出来なかった。無理もない。彼の顔は弾片でえぐられたデコボコの道路のようなもので、特定の人相を失っているのであった。

言語も視力も失ったこの怪人が、しきりに突き出して見せるのは、その残った左手であった。取次にでた女中のスミ子(重吉の娘)が、これを物乞いとカン違いをしたのは当然であるが、あまりのシツコさに、起久子、由子、美津子らも現れ、やがて美津子が閃くように、左手を差出す意味をさとったのである。

安彦は応召の前夜、昭和十七年の日記帳を厳重に封じて、ひそかに美津子に托して行った。自分が戦死した時に、中をあけて見るように、と言い残して。

然し、それと同時に、彼は、酒の酔いに乗じ、遺品と称して、左手の手型を紙に残した。