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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

サクラ拳闘クラブへお問い合せになると、なんとか返事がきかれるでしょう」

「失礼ですけど、定夫さんのお友達の方でいらっしゃいますか」

「えゝ、まア、拳闘仲間ではありませんがね」

「お住居は小田原?」

「いゝえ、僕たちは東京の者です」

女はガッカリしたようだった。女は、しばらくためらっていたが、

「私は定夫さんがこちらにいらっしゃることを当にして来たのです。今夜は、いらっしゃる筈なんですけど。約束していた筈なんですのに。もしや、あなた方のおきゝ違いじゃありませんこと?」

「さアてネ、僕の耳にした言葉に関する限りは、きゝ違いはありません。然し、定夫君が胸の思いと別なことを僕の耳にきかせたのかも知れませんが、然し、あの瞬間に、たぶん定夫君は、あなたとの約束を忘れていたんでしょうな」

巨勢博士はそう云って、自分が約束を忘れたような、すまなそうな顔をした。

「つまり、なんです。突然、小田原の家へ戻りたくないような事情が起ったんですな。いえ、これは決してあなたに拘りのあることじゃアないんで。要するに、家庭的なイザコザなんです。どうも、はや、そういうわけで」

と、巨勢博士は益々すまなそうに、どもった。