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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

これじゃア安彦さんでもなければ、どこの誰でもありませんぜ。ねえ、旦那。この復員軍人なら、誰でもないが、誰にでもなれまさアね。たゞ、身長が合いさえすればね」

却々もって、名言である。

「なるほど、うまいことをいうじゃないか。まるで名探偵のようだぜ。ヤ、御苦労。今夜は、もう休んでいゝよ。また、明日、色々とお前の探偵眼のお世話になることだろうから、ゆっくり一眠りしておくれ」

「エッヘッヘ」

重吉は又屁をたれて、引き下った。

「それでは、安彦の身長をたしかめてもらいたいね。それから、あの人相書を廻して、もと居た療養所とか、引揚船の同僚とかを探しだしてもらいたいね。さっそく手配をしてくれたまえ。私は一つ、美津子の部屋を見て来よう」

私たちは美津子の部屋へ行った。美津子が病院へ運び去られたことゝ、ココアの茶碗が鑑識員に持ち去られたほかは、現場はそのまゝ保存されていた。卓上の茶碗のあった場所にはチョークで印しがつけてあった。

洋服ダンスがひらかれて、洋装が投げこまれ、床の上まで垂れ落ちていた。ダラシのない性格か、さもなければ、にわかに睡くなったせいかも知れない。

床の上に、合いカギが一つ落ちていた。