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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

蛸のツカミ屁で気合いをかける必要どころか、話の泉の物識り博士のようなものだな」

「エッヘッヘ」

蛸重はキマリ悪そうな笑いをうかべ、ことさら顔をしかめて、ブッと又ツカミ屁をやり、頭上に放して気合いをかけた。

「おほめにあずかるほどのことも有りませんやね。実はタネがありましてね。昭和十五年六月の何日だかに、この家族が身長をはかって、計器の棒に書きこんであるんでさアね。これじゃア、まちがえる筈がありませんや」

安彦がホンモノでなければ、事件は急転直下、解決しそうであった。安彦のもと居た療養所とか同僚を探しだして、きけば分る。こんな風変りな復員丹下左膳が人々の記憶に残らぬ筈はないから、つきとめるのは容易であろう。

然し、安彦がニセモノであるとしてみると、問題は指紋であった。指紋にトリックがあるわけである。そして指紋によって安彦のホンモノを立証した美津子は、最も不利に立つわけであった。

「身長のほかに、安彦らしくないところが、見当らないかね」

「どこと云って、一つとして、安彦さんらしくありませんやね。腕が一本、足が一本。目はつぶれ、耳は半欠けの、アゴが半欠け、鼻まで半欠けでさアね。