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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

第十章 滝沢の訊問

大矢捜査主任は巨勢博士の言葉に耳をかたむけてきいていた。もし無くなったとすれば、捜査官たちは結局手型を見る機会を失ったのである。

大矢氏は浮かない顔で、

「結局、巨勢さん。キミだけだね、手型を見たのは」

「そういうことになりましたね。お気の毒さまですが」

「キミは手型について、なにか気付いたことがあるのと違いますか。犯人が手型を盗まねばならぬ理由を」

「イイエ、なにも知りません。たゞ、二つの手型がたしかに同一人の手型であった、ということのほかは、ね」

「矢代さん。あなたも手型を見ましたか」

こうきかれて、私はまるで犯人のように慌てゝしまった。警察官に物をきかれるのは、良い気持じゃない。

「あいにく私は見ませんでしたよ。私が巨勢君の事務所を訪ねたときは、もう用談がすんで、手型は美津子さんのバッグの中にはいってしまった後でした」

「やれやれ。失せ物が、また一つ、ふえやがったか」

大矢捜査主任はガッカリして、つぶやいた。一日中ピストルをさがしあぐねて、ウンザリしていたのかも知れない。

第十章 滝沢の訊問

我々が倉田家へ戻ると、滝沢三次郎が小田原駅へ下車したところを発見されて、連行されていることが分った。