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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

それから、美津子さんは、いつネマキに着替えたか、ハッキリ記憶がない。そして、カギをかけて寝たかどうかも記憶がありません。しかし、部屋のカギはかゝっていましたし、美津子さんはネマキに着替えていました」

「フウン。ずいぶん重大なことが明かになったもんだねえ」

と、私は博士をひやかした。

「もう、それだけかい」

「美津子さんは、テーブルの上へ二枚の手型を並べて、ながめながら、物思いにふけっていました」

「なるほど。それだけは初耳だったな」

と、私にみなまで言わせず、大矢捜査主任が鋭い目を巨勢博士にむけて、

「その手型だがねえ。テーブルの上には、もう、なかったねえ」

「もう、どこにも、ないでしょうな」

「どこにも?」

私は驚いて、ききかえした。

「どうして、どこにもないんだい」

「ただ、そんな気がするんですよ。安彦氏の部屋のカギだの甲虫殺人事件だのと余計なものが有るぐらいだから、入要のものが無くなっているだろうと差引勘定したまでさア。ボクは算術がすきなんです。アハハ」

「美津子さんがどこかへ蔵ったかも知れんじゃないか」

「そうです。しかし、どこへ蔵ったにしても、なくなる時は、なくなります」