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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

三十六という年齢にはとても見えない。二十八九の若さに見え、虫も殺さぬように見える。倉田組という荒っぽい稼業の家台骨をしょっているような凄みはなくて、世間知らずの秀才という感じであった。柔道二段、剣道三段というのも信じられないほど、身体ツキにも武骨なところがなかった。

いかにもやわらかな微笑をうかべ、恐縮そうに捜査主任の前へ立ったが、どこにもズルそうなところがない。私は拍子抜けがしたほどだった。

しかし、さすがに捜査主任は、人の外貌などは意に介しないらしく、万事、事務的に、計算器のような冷めたさで、訊問にとりかかった。

「昨夜は、どこにいましたかね」

「ハア、よんどころない用で、上京しまして、東京に泊りました」

「昨夜、家をでたのは?」

「左様。七時ちょッと過ぎたころでしたかな。美津子さんが帰宅したのが七時ごろ。それから十分程して、私は食事を終りまして、仕度して出かけました」

「すぐ上京したのですか」

「いいえ、一度、事務所へ行きました。私が上京したのは、八時五十五分発上り列車でした」

「ハテナ。あなたが十時ごろ事務所にいたのを見たという人がいるが」

「それは何かのマチガイですな。