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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

八時四十分ごろ、私は事務所をでました」

「それを証明する人がいますか」

「さア。自動車か電車にのればよかったのですが、私は歩いて行きましたので、道では知った人に会いませんでした。駅でも知った顔には会いませんでしたが、そう、そう、あの列車が二宮をすぎてから、イヤ、大磯をでゝ、馬入川にかかる頃でしたかな、車中にケンカがありました。しかし、そんなことは、証拠にはなりませんな。車掌が見ていたワケではなし、ヤミ屋らしい男同志のちょッとしたケンカにすぎないのですから」

「しかし、十時前後に、あなたを小田原で見かけた、という人が二人もいるのですが」

と、捜査主任はカマをかけたが、滝沢は、やわらかな微笑をくもらせもせず、たゞたゞ素直そのものに受けいれて、

「イヤ、それは何か、錯覚でしょう。こういう面倒が起るのでしたら、駅前の交番へでも挨拶して行くところでしたな」

「東京へついたのは何時ですか」

「私は横浜で下車して、電車に乗換えて桜木町へ行きました。行先を申上げるワケに行かないのが残念ですが、ちょッとした用件で、第三国人に会った、とだけ申しておきましょう。それ以上、申上げるワケにいきません。