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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

のであった。

酒が始まるとまず喧嘩の話が出た。

「ともかく驚きました」吉太郎がそう口を切った、「――こちらは貴方に話しかけた、まえからいちどお話をうかがいたいと思っていたところ、御城代のお邸の門前でばったり会ったでしょう、これはいい機会だと思って声をかけたわけです、ところが貴方はいきなりこの野郎ふざけたまねをするなと喚きだしたんですからね」

「側にいた私たちも吃驚しました」白井九郎兵衛が云った、「――あれあれと見ているまにふざけたまねとはなんですか、くそウくらえ、なにがくそだ、うるせえ、無礼者、ええ面倒だということで殴りあいになったんだが、私は三つ四つ殴られましたけれども、なにしろわけがわからないんで」

「あのときはこうなんだ」泰三は説明した、「――あのすぐまえに別の連中と喧嘩をやってね、すぐ引返して来るから待っていろと云って、用達しをするために走って来た、そこを呼び止められたんで、その連中が追っかけて来たもんだと思ったんだよ、おかげでそいつらが待っていることを忘れちまって、夜になって家へねじ込まれて恥をかいちゃった」

「その連中というのは誰ですか」

「頬ぺたかどっかに傷痕のある、そう本多孫九郎というのとほかに四五人」