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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

「おしょくッてなに者だい」

「汚職、つまり職務を汚す、汚職です、うちあけて申しますが藩政は紊乱し弛廃し、悪徳と不正で充満しています、貴方はおそらく、……典木さんが赴任して来られたのも、おそらくその点に秘密の使命があるのだと思いますが、いいえ隠さないで下さい、私共は知っているのです、そして貴方が必ず使命をはたされるだろうということも信じているのですから」

「おれにはなんだかわからねえが」泰三はやや酔いかけていた、「――政治だのなんだのごたごたした話はやめようじゃねえか、酒が不味くなっていけねえ、おウそこにいる青いの、おめえ一つ受けて呉んな、それにこう野郎ばっかり雁首を並べていてもつまらねえがどうだ、芸妓を四五人呼んでぱっとやらねえか」

「今夜はまじめな話があるんです、貴方は仮面をかぶっておられるようだが、私共は本気なのですから、藩家のためには一命を捧げる覚悟でいるのですから、どうか胸襟を開いて申上げることを聞いて頂きたいのです」

「そんなに云いてえんなら云うさ、おらあ勝手に飲みながら聞いてるよ」泰三は手酌で飲み、脇を向いて独り言を云った、「――こんなことなら来るんじゃあなかった、酒も肴も不味いし、なっちゃねえや」