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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

お孝は、離さじ、とただ黙って葛木に縋る。

「や、ここにも一人。」

警官は驚いた。露地の出口の溝の中、さして深くもない中に、横倒れに陥って死んでいたのは茶缶婆で、胸に突疵がある。さては赤熊が片附けた。

これが為に、護送の警官の足が留って、お孝は旅僧と二人、可懐しそうに、葉が差覗く柳の下の我家に帰る。

清葉の途中で立停ったのを見て、お孝が判然した声で云った。

「姉さん、遺言を聞いて下さい。」

「はい。」

と答えた。二人は柳の軒燈に、清葉はその時、羽目について暗く立った。

「お孝さん、蔵も今しがた落ちました。」

と云って、実際目ぬりが届かないで、助ったつもりの蔵、中には能衣装まであると伝えた。が開いたのであった。

坊やを胸に、すっと出て、

「身に代えまして、清葉が、貴女になりかわって。」

その時三人が皆泣いた。

「お千世さんは、」

「ああ、お千世。」

余りの事に呆果てて、三人は茫然とした。中にも旅僧は何をトッチたか、膝で這廻って、雛芥子の散った花片の、煽で動くのを、美しい魂を散らすまいとか、胸の箱へ、拾い込み拾い込みしたのである。

信八郎氏が先ず一人で入って来た。