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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

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だから眼の誤りだという解釈もあるが、しかし見た男は、確かにそこに片腕が転がっていたと保証するのだ。それが本当なら、変な話じゃないか。……さあ、その後は歩きながら話すとしてお前さん一足先に外へ出てくれ」

そういって「深夜の市長」は、土窟の天井の明りをパッと消した。

9

それから「深夜の市長」と僕との奇妙な道行が始まった。彼は三月二十九日夜の殺人事件を解くのだと称していたが、なにをするのかと思っていると、大通りへ出るなり、そこに通りかかった空のトラックの方を向いて手をあげた。するとトラックは、驚くべき素直さをもって、大急ぎでブレーキをかけ僕たちをすこし通りすぎたところで停車したのだった。

「亀沢町まで頼むよ」

と「深夜の市長」が何か変な手真似をしながら声をかけると、運転手は黙って肯くのであった。だが僕は、その運転手が敬虔な眼眸をもって「深夜の市長」に対するのを見遁がしはしなかった。――僕等はトラックの後へ攀じのぼった。

向きを変えたトラックが亀沢町へ入りこむと、老人は合図をして車を停めさせた。

「廻り路をさせて済まなかったな」

老人の挨拶は若々しかった。運転手は何か云いたげに唇をモゴモゴ動かしたが、遂に一言も発しなかった。