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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

最も意外なのは、彼を救い出した警官が、一枚の扉をも破る必要がなかったことである。つまり入口は勿論、愛之助が監禁されたと信じていた部屋の扉にさえも、鍵がかけてはなかったのだ。彼は一晩中度々その扉を開こうとしたが、いつも外から鍵がかけてある様に感じた。悪魔はいつの間に、又何が為に、それをはずして行ったのであろう、それとも、愛之助の方で逆上の余り、そんな風に誤信してしまったのか。

朝の陽光と共に妖怪が退散した感じで、昨夜のことは凡て凡て、彼の夢か幻でしかなかったとさえ思われた。巡査も変な顔をして、彼をジロジロ眺めるのだ。

で、結局、この怪屋の怪事件は、うやむやに終ってしまった。警官には愛之助の物語った怪事よりも、愛之助自身の精神状態の方がよっぽど奇怪に見えた。随ってこの事件は、一精神異常者の奇怪なる幻想として、深く取調べることもなく葬り去られたことに相違ない。

事実、愛之助が猟奇の果てに、ついにあの大罪を犯すに至った、心理的異常は、已にこの時に胚胎していたのかも知れぬ。彼は狐につままれた形で、昨夜の出来事が夢か現実かの判断もつかず、フラフラと別宅に立戻った。