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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
間近で見ても間違いもなく品川四郎である。だが、彼はとぼけた顔をして、俄かには返事をしなかった。
「オイ、どうしたんだ。見世物見物かね」
愛之助はもう一度言葉をかけた。
ところが、品川の方では、やっぱりキョロンとして、解せぬ顔をしている。そして、変なことを云い出すのだ。
「あなたは誰です。今品川とかおっしゃった様ですが、僕はそんな者じゃありませんよ」
愛之助はポカンとしてしまった。
その隙に相手は、
「人違いでしょう。失礼」
と捨ぜりふで、ドンドン向うへ行ってしまった。
青木は、「やっぱり俺は夢を見ているのか」と思った程、びっくりした。生れて初めての不思議な経験だった。
断じて人違いではない。あれ程長い間尾行したんだから、よく似た別人なら、気がつく筈である。と同時に、彼が品川四郎その人でないことも、当人がキッパリ云い切ったのだから、これ程確かなことはない。変だ。
愛之助はこの奇妙な出来事に、何だか胸が、ドキドキして来た。
「そうだ。あの石垣を調べて見よう。何か分るかも知れない」
猟奇者は、彼の日頃熱望する猟奇の世界へ、今や一歩を踏み入れた訳である。
急いで元の遠眼鏡屋のうしろへ戻って、人に見られぬ様に注意しながら、石垣の石を、あれこれと動かして見た。