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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
取次巡査はそのうしろに、逃がすまいとがんばっている。
「何かお忘れものでも」警部は強いて笑顔を作って云った。
「エ?」品川氏はどぎもを抜かれた形だ。
「君は三十分程前に、指環を抜取って帰ったばかりじゃありませんか。途中で指環を落したとでもいう訳ですか」
「エ、僕が三十分程前に、ここへ来ましたって。この僕が?」品川氏は何が何だか分らぬ様子であったが、間もなく部屋の空気や警部の表情から、ある恐ろしい事実を察して、サッと顔色を失い、その場へ棒立ちになってしまった。
「あいつだ、あいつに先を越されたのだ」
品川氏は空ろな眼で一つ所を見つめたまま、ぶつぶつと呟いていたが、やがて気を取直して、
「よく見て下さい。この僕でしたか、こんな服装をしていましたか」
云われて見ると、同じ黒の上衣、同じ縞ズボンではあったが、地質や縞柄が違っていた。真に夢の様な出来事である。あまりのことに主客とも一座しんと静まり返ってしまった。
「すると、あいつ、何から何まで本当のことを云ったのだな。僕達を瞞着する夢物語ではなかったのだな」
流石の明智小五郎も、この想像の外の奇怪事に、思わず席を立って、真蒼になって叫んだ。