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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
彼は有産社会から鬼畜呼ばわりをされながら、鋼鉄張りの神経で、どこを吹く風かと空うそぶいていた。
又、この事件で打撃を蒙ったのは独り同業者ばかりではなかった。日本の全産業界に、嘗つて前例のない、労働者横暴時代がやって来るのではないかと疑われた。というのは、岩淵紡績争議が終って、まだ一週間もたたぬ間に、全国各地の様々な製造工業に、已に五つの争議が起っていた。彼等は岩淵紡績の実例で味をしめ、増長したのだ。そこへつけ込んで、争議で飯を食っている連中の、煽動よろしきを得たのである。
すると、妙なことに、それがどんな地方で起った争議であっても、職工の要求書が提出されると同時に、岩淵紡績の場合と同じ様な脅迫状が、事業首脳者の私宅に、誰が持って来たともなく現われるのだ。令嬢なり、令息なり、令夫人なりの命を頂戴するという例の文句である。
目前、宮崎氏令嬢の実例で、怖気をふるっている資本家達は、結局職工の要求を容れることになる。でなければ、工場閉鎖だ。
この勢で、ドシドシ争議が起り、ドシドシ労働者の言分が通って行ったならば、極度の物価騰貴を招来するか、然らざれば生産工業全滅である。