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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
だが、野村の態度なり言葉なりが、長年人を見慣れた伯爵には、どうしても出鱈目とは思えなかった。
現実の出来事には嘗つて恐れを抱かぬ大政治家も、この妙な悪夢の様な感情を、如何に処分すべきかに困惑した。馬鹿馬鹿しいと一笑に附し去るはたやすい。併し、野村秘書官がまさか気が違ったのではあるまい。俺はあの男の指図した奇妙なお芝居を演じなければならぬのだろうか。
伯爵が思案に耽っている所へ、丁度彼が今幻に描いていた人物が這入って来た。令嬢の美禰子さんだ。
「お紅茶を持って参りました」
美禰子さんがしとやかに云った。
伯爵は何故かギョッとした様に、彼の娘を見つめた。
「お前美禰子だね。美禰子に違いないね」
「マア、何をおっしゃってますの、お父さま」
令嬢は鈴の様に笑って見せた。
伯爵は娘の手から紅茶の容器を取って、口へ持って行きながら、
「お前、これをお父さまに飲ませるのだね」
と底力のある声で、念を押す様に云った。
すると今度は美禰子さんが、サッと青ざめて、非常な狼狽の様を示したが、流石に一瞬間で元の冷静を取戻した。
「マア、変なことばっかり。お父さま、今日はよっぽど、お疲れの様ですこと」