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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

蝋燭は、その男の身体で隠されているのだ。それが幽霊男に相違ないことは、品川四郎そっくりの身体の恰好で明かだ。

部屋はやっぱり空家同然で、何の飾りつけも家具もなく、ただ男の向う側にテーブルの様な台の一端が見えているばかりだ。

男は時々身動きをする。それが、上身をかがめ首を垂れて、何かおがむ様な恰好に見える。一体何をしているのかしら。男の蔭になって見えぬテーブルの上に、その対象がのせてあるに相違ないのだが、この深夜、空家みたいな部屋で、何かを礼拝しているというのも変な話だ。それに、さっきの女の悲鳴は一体何を意味するのか。見た所、部屋には幽霊男一人丈けで、女なぞいそうにない。

眼が慣れて行くに従って、段々微細な点が分って来た。先ず、男がワイシャツを肘の上までまくり上げていることに気がついた。何かひどい力仕事でもした恰好だ。次に、そのワイシャツの袖口に点々として赤いしみのついていることが分った。血だ。よく見ると、むき出しの腕には川の様に恐ろしい血のあとが凝固している。

愛之助は、礼拝している物体を想像した。若しやさっきの悲鳴の主の死体が、そこに横わっているのではないだろうか。