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ふくおうじでん

福翁自伝

福沢 諭吉

02 福翁自伝

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页

青空文庫

塾長になる

能く考えて見ろ。憚り乍ら諭吉だからその位に強く云たのだ。乃公はその時には自から決する処があった。お前が愚図々々云うなら即席に叩倒して先生の処に引摺て行て遣ろうと思ったその決心が顔色に顕れて怖かったのか何か知らぬが、お前はどうもせずに引込んで仕舞た。如何にしても済まない奴だ。斯う云う奴のあるのは塾の為めには獅子身中の虫と云うものだ。こんな奴が居て塾を卑劣にするのだ。以来新入生に遇て仮初にも左様な事を云うと、乃公は他人の事とは思わぬぞ。直ぐにお前を捕まえて、誰とも云わず先生の前に連れて行て、先生に裁判して貰うが宜しいか。心得て居ろと酷く懲しめて遣た事があった。

塾長になるその後私の学問も少しは進歩した折柄、先輩の人は国に帰る、塾中無人にて遂に私が塾長になった。扨塾長になったからと云て、元来の塾風で塾長に何も権力のあるではなし、唯塾中一番六かしい原書を会読するときその会頭を勤める位のことで、同窓生の交際に少しも軽重はない。塾長殿も以前の通りに読書勉強して、勉強の間にはあらん限りの活動ではないどうかと云えば先ず乱暴をして面白がって居ることだから、その乱暴生が徳義を以て人を感化するなど云う鹿爪らしい事を考える訳けもない。