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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

七

カチッと音がしたかと思うと、パッとついた電灯の光の中に、白と黒とのあざやかな棒縞を着た京子が、ニコニコ笑いながら立っていた。

七

「悪かったわねぇ。お休みになっているところを。」

京子は、そういいながら、ちっとも悪かったらしい顔をしないで、後の障子をしめると、そこの柱を背にして、腰をおろした。

「いいえ。わたし、まだ寝ていませんでしたの。」

「ねぇ、倭文子さん。わたしまた村川さんのあること聞いたのよ。」

倭文子はそれを「何ですの」といって訊きただそうとする勇気はなかった。

「ねぇ、ちょっと村川さんがね。昨夕芸妓に送られて帰って来たのですって。」

倭文子は見はった眼から危く涙がこぼれそうになった。

「ほんとうですの。」

「ほんとうですもの。野村が見つけたんですって。」

「まあ!」

「それでも、まだあなた、あの方をお信じになるの。」

倭文子は、うつむいたまま言葉がなかった。

京子は、しばらくだまっていたが、

「ああ、もうすぐ十時だわ。もう五分前よ。」

彼女は左の手首につけたプラチナの時計を見ながら、いいつづけた。

「あなた、気にならない。」

倭文子は、涙ぐんだ眸をちらとあげたが、すぐ顔を伏せた。