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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

机の引出から、万年筆と書簡箋を出した。彼は秀才の上に文章はかなり自信があるのだが、字は悪筆であった。会社で社長の代筆を、嫌々ながら二度すると、三度目には先方で頼まなくなった。彼は、まずい字を恋人に見せるのはイヤだった。でも、勇気を出して書き出した。

彼が三行ばかり書くと、電気スタンドが少し邪魔になるのを感じた。彼は、左手を出して、それを遠くに押しやろうとした。すると、その下から白い紙片がはみだしているのを見つけた。

「おや!」と思って、彼はその紙片をとりあげた。

それは、純白のレターペーパーだった。鈴蘭の模様がついているので、少女用であるのがすぐわかった。彼は胸があつくなりながら、それをひらいた。

その瞬間、夕暮の海のように暗かった彼の顔に、サッと金色の光がみなぎった。彼は万年筆を放り出すと、部屋中をきりきり舞いしながら、飛んで歩いた。

彼は机の前へ帰って来ると、またその紙片をとり上げて、見直した。最初見た通りの、

「今晩、十時、四阿でお待ちしています。ぜひぜひおいで下さいませ。倭文子。」

という字が、そのままにあるのが、奇蹟としか考えられなかった。