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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

ただ川辺家を去ると、それでなくてさえ望み少くなって来た倭文子の間がらが、一糸のつながりもなくなってしまう事が堪えられなかった。

京子が邪魔をすればするほど、ここにふみ止まって、京子の策略と戦い、倭文子を取り返す事は、男らしい態度だと思われたので、彼は時々新聞のよろず案内等で、下宿の広告を注意しながらも、川辺家を去る心はなかった。

すると彼は、意外にも、倭文子からの絶縁状を受け取った。その手紙は、彼を絶望のふちにたたきおとした。だがその手紙で、倭文子の心持がはっきりわかったので、彼はかえって新しい曙光を見た。

すべては偶然の機会から起った誤解である。京子と誤って接吻をした事だけは容易に解き難い誤解ではあるが、しかし倭文子がほんとうに心を傾けて聞いてくれれば、解いて解き難い誤解ではなかった。

彼は倭文子の手紙で、むしろ安心した。と同時に、倭文子にあいたいという心が、はげしい飢渇のように彼の心をおそった。彼は葉山へ行って、軒ごとに倭文子のありかを探したいとさえ思った。こうなれば、京子が傍にいようとも、自分の心をはっきりと倭文子に告げようと、そしてすべてのいきさつを、はっきりと彼女にはいおう。