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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

「六時三十五分です。」

「じゃ、おれ達より一汽車遅れたんだね。」

「さあ。村川君、こちらへ来たまえ。」

宮田は、そういって椅子を直してくれた。人間の感情が、正当なはけ口を得ないほど、人の心を苦しませるものはない。村川は煮られるようなやるせなさをこらえて椅子に腰かけた。

「今まで、麻雀をやっていたのだが、倭文子さんが、頭痛がするといって寝室へ行ったものだから、三人になって困っていたところなのだ。君が、来たのでちょうどいい。」

村川は京子の言葉が、嘘でないのを知った。だが、同時に激しい絶望を感じた。倭文子と二人きりになって話をすることなどは、この境遇では思いも及ばなかった。それよりも、今ではいかにこの場を体裁よく脱け出すかが問題だった。

京子は、村川が階段を上り切ったのを見ると、自分も足早に階段を上った。だが、座敷のドアからそっと中をのぞき、村川が今井などにつかまっているのを見ると、安心して引き返した。そして、倭文子の入っている寝室のドアを開けて中へ入った。

電灯に、濃い青色のシェードがかかっているので部屋は、薄ぐらかった。倭文子はまだ寝ていなかった。自分の寝台の傍の床の上に、膝をつき顔を寝床の中に埋めていた。