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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

どこか別な部屋へ移してあげたいわ。」

「はい。ごもっともでございます。先刻、ボーイに申しつけました。」

執事は、京子の提言をもっとも至極だと思った。

村川のために、某医学博士が、東京から呼びよせられることになった。

京子は、その夜遅くまで、村川の看護に当った。倭文子の遺骸は、別室に移され、彼女と村川との間には、何の邪魔者もいなくなった。執事も書生も、寝てしまった。季節はずれの湖畔のホテルの夜はしずかであった。ただ、村川がときどき、低いうめき声を出すだけで、眠りつづけているのが、物足りなかった。

十二時近い頃、京子は村川の唇に、小田原から来た医師が残して行った水薬を、与えた後、彼のやや血色をとりもどした顔を、じっと見つめていた。

と、今まで眠りつづけていた村川が、パッチリ眼を開いた。最初、朦朧としていた眸が、だんだん確かになると、京子の顔をじっと見つめ始めた。京子は微笑した。村川も微笑した。彼は、蒲団に覆われた手を動かそうとした。京子は、蒲団をめくって、その手を自由にしてやろうとした。すると村川は、そのためにさしのべた京子の手を、しっかりつかんだ。そして、強く京子をひきつけた。