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だいにのせっぷん
第二の接吻
菊池 寛
「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页
彼は、京子がお手洗いへ立つかどうかして、倭文子と二人きりになる機会が、必ずあるに相違ないと楽しみにしていた。だが、京子が立つと倭文子は影のように寄り添って立った。京子が村川を一尺離れると、倭文子は二尺離れていた。京子が一間離れると倭文子は一間一尺離れていた。その上、グリルルームで三人で食事をするときなど、倭文子は村川には、直接には一言も口をきかなかった。村川の方から話しかけると倭文子は、出来るだけ短い返事を探し出して答えた。そして、村川の顔などは、正面からは一度だって見なかった。
「村川さんとは、少しでも親しくしてはいけません。」
そんな無上命令が、京子から出ているようだった。むろん、ハッキリと口に出してはいわれなくっても、暗々裡にそう命ぜられているようだった。
村川は、ショパンのワルツを聴きながら、スッカリ憂欝になってしまった。倭文子が、それほど京子を憚っている以上、自分がどれほど彼女を愛しても絶望に違いないと思った。だが、そうした障害を感ずれば感ずるほど、彼の思慕は募って行くのだった。
その上、倭文子が上辺だけは、彼に対して、どんなによそよそしい態度をしていても、彼はカーテンの陰で、彼に対して与えた彼女の微笑を忘れる事は出来なかった。