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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

三

彼が、京子の家に帰ったのは、その夜十一時をすぎていた。彼のために、玄関のとびらを開けてくれた女中は、

「あの、旦那さまが、明日会社へいらっしゃる前にちょっとお会いしたいのですって。」といった。

三

その翌日、村川は朝食を終えると、すぐ主人の部屋へ行った。昨夜女中から聞いた伝言が、気にかかってならなかったからである。

川辺家の主人は、朝早く起きて西洋草花の手入れをするのが、この三四年以来日々の仕事である。村川が部屋へ行ったとき、主人はもう庭園から部屋に帰って、新聞を読んでいた。

「お早うございます。」

そういって、村川は敷居の上に手をついた。

「ああ。お早う。こっちへお入り。」

髪は、すっかり白くなっていたが、ひげのない童顔はつやつやとして、どこかに往年の精力を偲ばせた。

村川は、一間ばかり隔てて坐ったが、主人とこうして向い合うことが、滅多にないだけに、何となく窮屈である。

「どうだ、会社の方は、毎日行ってるか。」

「はあ。」

「少しは容子がわかったか。」

「はあ。少しはわかりました。」

「今井は毎日出て来るか。」

「お見えになっているようです。」

「女房が死んでいくらか、元気を落しているだろう。