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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

五

白山下を、左へ折れ狭い道を、植物園に沿って徐行して行くと、そこに立っている電信柱の陰から、倭文子がちらと横顔を出した。

「ストップ!」村川は、あわてて叫んだ。

でも、自動車は惰力のために坂を二三間すべって止まった。

村川は、料金を払うと、後がえりして倭文子の立っている電信柱へ近づいた。

倭文子は、顔を真赤にして、パラソルの先で、地上に大きい図を描いていた。

茶がかった飛白の銘仙のそろいを着た華奢な身体に、処女らしい美しさが、みずみずしく香っていた。

五

村川が近づくと、倭文子は、あわててパラソルをひろげて、それで自分の上半身を覆ってしまった。

村川は、ローズ色のパラソルに話しかけた。

「お待ちになった?」

倭文子は、それに返事をしないでくつくつパラソルの中で笑いながら、先に立って坂を馳せ降りた。

「よく出られましたね。」

倭文子は、返事をしないで限りない恥しさを、笑うことでまぎらしていた。植物園の門を入ってから、彼女はやっと笑い止んだ。そして、パラソルを右の方へ倒して、やっと村川に顔を見せた。

「すみません。お呼び出しして。」

「いいえ。僕こそ、どんなにお会いしたかったかわからないのです。