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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

七

他人のために、自分の運命を狂わすなんて、そんな馬鹿なことがあるでしょうか。」

倭文子の今までかくれていた一つの性格が、今突然村川に現れたような気がした。彼女の感情は純真ではあるけれども、地震計のように感じ易いのだ。そうして、その感じによって彼女の心は、水銀の玉のように、ころころころがり廻るのだ。

「あなたは、何のために誓ってくれたのです。あなたの心はそんなに変り易いのですか。」

倭文子は、真青にふるえながら、黙って立っていた。

七

村川は、美しい蛾の羽のように、もろい傷つきやすい心を持っている倭文子をいだいて、眼前に迫る難関を突破することが、どんなに難しいかを考えた。

何よりも、彼女の心に鉄のような……とゆかなくっても、こんなにもろく動揺しない覚悟を植えつけることが、一番大事だと思った。

「もう一度腰かけて下さい。それとも歩きながら話しますか。」

菖蒲の咲いている向うの細長い池の汀を、三人の女学生がこっちへ歩いて来るのを見た倭文子は、村川の言葉をすぐ受け入れて歩き出した。

樫や楓の大樹が、枝を交えている丘を上ると、急に眺望が開けて広々とした草原に出た。