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だいにのせっぷん
第二の接吻
菊池 寛
「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页
とても会社へ出て、働く気にもなれなかったが、家にいて京子に監視されながら、悶々としているよりも、まだ会社の仕事をしている方が気がまぎれそうな気がしたので、いつもよりは三十分も遅れて出社した。
村川が出社したのを見ると庶務課長の宮田が、タイプライターで打った書類を持って、村川の机に来た。
「村川君、これを一つ翻訳してくれたまえ。」
見ると、買入契約書についている仕様書だった。それは、やさしい英語だったが、こうした文書になれていない村川には、それぞれのテクニックに対する訳語が容易に見つからないので、昼近くになっても訳し切れなかった。
宮田の所へ行って、訳例を見せてもらいたかったのであるが、宮田のつんと取りすました皮肉な態度に、何となく親しめないところがあるのと、この文書を訳させることが、自分に対するテストのように思われたので、村川は我慢して考えつづけた。だが、考えていると、倭文子の顔や京子の顔が、かわるがわる意識の中に浮んで来て、ただでさえ朦朧としている意識を一層濁してしまうのだった。
「村川君、まだですか。」
十二時が鳴ると、宮田は村川の机の所へ来て、のぞき込んだ。