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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
春の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页
文士の筆として世間という奴という如き文字を綴るのは心の礼がないばかりでなく筆の礼も知らない。その外面のあたり人に媚びて退いて人を誹るとか、表面で尊敬して裏面で排撃するとか社会の人に心の礼のない事は歎ずるに余りあり。大原君をして何の仕事をなさしめずともこれから社会に向って心の礼という説ばかり主張させたら国家のために大利益がある。あれは決して軽蔑すべからざる人物だ」お登和「そうおっしゃれば昨日の事を考えてみてもあの不思議な半襟を持って来て下すった処は心の礼が充分に籠っているのですね」兄「そうだとも。男が女に向っても形の礼より心の礼を重じなければならん。子が親に向っても妻が良人に向って心の礼がなくっては如何に形ばかり神妙にしても役に立たん」お登和「それで大原さんは今何をしていらっしゃいます」兄「今は原書を反訳して書物屋へ売ったり雑誌へ投書したりしている。劣等生だから売口は悪いけれども他日あの男が心の礼を天下に主張する時代が来たら外の優等生や先輩の不誠実家は忽ち屏息するに至るだろう」妹「してみると末はなかなか有望なお方ですね」兄「ウム、だから和女が強いてイヤと言わなければ大原と親類になってもいい」