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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
春の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页
これはわざわざ貴嬢に差上げるつもりで近頃新製の珍らしい半襟を択んだのです、どうぞ御受納下さい」と手を出してお登和嬢の方へ押し遣る。お登和嬢はしり込して身を退去る。妻君が仲に入て頻にお登和嬢を説きければ嬢も詮方なく「それでは戴きましょう、ありがとうございます」と不勝無性に受けて脇へ置きしまま中の品を見んともせず。大原は張合なさそうに嬢の顔を眺めている。妻君も遂におかしさを堪え得ず「大原さんが半襟をお買なすったのは生れてから始めてでしょう、どんな品をお見立なすったか。お登和さん、外のお方でないからここでお見せなさいな」お登和は別段に見たくもなき様子にてただハイと包みたるままを妻君に渡す。妻君先ずその大水引と大熨斗に驚き、お登和のおらぬ時ならば早速悪口を利き出さん場合なれどもお登和嬢の前にて大原を軽蔑するように見せては後のため悪しかりなんと笑を忍び「お登和さん出して見てもようございますか」お登和「ハイ」と気のなき返事。大原は早くお登和嬢に品物を見せしめて悦ぶ顔が眺めたしと心も窃に躍るばかり。妻君は定めて上等の縮緬に花など縫いしたる立派な襟ならんと思い、そうっと水引を抜き、大切に包み紙を披きて中の品物を取出し「オヤ」