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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
春の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页
それに貴君はあんな半襟なんぞをお持ちなすってかえって人を馬鹿にしたようなものです。柄にない事をなさるから御自分で事を毀すようなものです」大原「イヤあれは大失敗、全く僕が悪戯をされたのです。実は寝言にお登和さんの事を口走って隣室の書生さんに聞かれたのが原因で、好意か悪意か親切ごかしにあんなものを買って来てくれて僕を玩弄物にしたのです」妻君「道理で上包の拵えからおかしゅうございましたよ。半襟位をあんな大きな奉書へ包んで頭なしの水引や熨斗をつけたのは茶番めいています。お登和さんのようにおとなしい人でなければ馬鹿にされたと思ってどんなに怒るかしれませんよ」大原「それを怒らない所が僕に対してよほど温情を抱いているのですね、品物よりも僕の志を受けると言った所は尋常一様の言葉でありませんね」妻君「オホホ貴君も罪がありません。お登和さんの方では温情どころか冷眼を以て貴君を視ておいでです。私も内々気を引いてみましたけれどもお登和さんのお心には貴君の事をあんまり好ましいともお思いなさらんようです」大原「それはチト失望ですな。何とか外に名案はありますまいか」妻君「お登和さんの口振では兄や親の都合次第でどうなるか分らんとお言いでしたから先ず中川さんに話して中川さんが御承知なされば強いてイヤともおっしゃいますまい」