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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

若し鏡の助けがなかったら、一寸急には発見出来なかったかも知れない。

舞台下手の出入口に近く、天井に達する直立の梯子がある。三人はそこへ飛んで行って天井へと駈け昇った。道具方は慣れたもの、明智も引けは取らぬ、三匹の猿だ。

追手に驚いた道化者は、針金を渡り尽し、屋根裏の横木を伝って、見物席の天井の上へ逃込んだ。三人も遅れず同じ穴から這い込む。

屋根裏の大捕物だ。

格天井の隙間から、逆様の夕立ちみたいに射し込む光線の糸。その外には何の光もない、べら棒に広いがらんどうの暗闇だ。

曲者の白いダブダブの道化服が白い光の糸を、チラチラと通り過ぎる。

古い天井には所々、足を踏み抜く程の大きな穴があいている。天井裏を這う間に、そんな穴に出くわすと、遙か下方の見物席の全景が、手に取る様に眺められる。そこにはもう、一人も見物人はいない。不意の椿事に驚いて、先を争って帰ったのであろう。僅かに物好きな弥次馬が五六人、劇場事務所の人々などが、曲者が屋根裏に逃げ込んだと聞いたのか、舞台の方へ走っている。その中に玉村二郎の姿も見える。アア、警官も到着した。木戸口からなだれ込む数名の制服姿。