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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「早く、早く」

娘は乾いた舌で囁く。明智と二郎とは、娘に導かれて家に這入った。這入った所は、三坪程の小さなホールになっている。

「大丈夫ですか。僕達がつけて来たことを感づいてやしませんか」

「まだ大丈夫です。奥には二人しかいません。お父さんと、森の中であなたに見つかった男です。外の座員達は思い思いの方角へ逃げました。奥では今お酒を呑んでいます。早く捕えて下さい。今度こそお父さんを逃がさないで下さい」

文代は彼女の切ない思いを細々と語りたかった。玉村一家の人々を救う為には、実の親ながら、極悪非道の父を警察へ引渡す外はないと、けなげにも心を極めるまでの、云うに云われぬ苦しさ悲しさを、しみじみ聞いてほしかった。併しこの危急の場合、そんな余裕はないのだ。

「先ず第一にあたしを縛って下さい。あたしは極悪人の子です。一味の者です」

娘は明智に身体をすりつける様にして、強い調子で囁く。

「どうして? 君はもう我々の味方じゃないか」

「でも縛って下さい。そうでなければ、あたしは大きな声を立てます。親を売った娘は縛られるのが当り前です」

可哀相な文代は、もう泣き出し相な声だ。