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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「お父さま、兄さん、どこにいらっしゃるのです。あたし怖い!」

「しっかりするのだ。みんな気を落してはいけない。ナアニ、まだ助からぬと極った訳ではないよ」

親子兄妹が、恐ろしい闇の中で呼び交わした。

扉の外では、五十年以前に、玉村幸右衛門氏がやったと同じことが行われていた。悪魔は、鉄扉の外へ更らに煉瓦を積上げているのだ。コトコトという物音はそれに違いない。さっき通りすがりに見た、煉瓦の山は、その為に用意されてあったのだ。

「こう暗くては、どうすることも出来ない。マッチはないか」

玉村氏の声に応じて、一郎は所持のライターを点火した。

赤黒く見える煉瓦の穴蔵、暗闇よりは一層物すさまじき光景である。

どんなにあせって見ても、急に出られぬことは分っている。それよりは、兎も角、奥村源造の云い残して行った、壁の中を検べて見よう。ひょっとしたら、その奥の土を掘って、外へ抜け出せぬものでもない。

玉村氏はそこへ気づくと、一郎のライターをたよりに、壁の側へよって、そこに下っているスクリーンを引きちぎった。

そのうしろの煉瓦の壁は、ところどころ漆喰がとれて、たやすく抜き出せる様になっている。