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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
「畜生め、畜生め」
気の強い一郎は、いきなりそれを追って、蛇の頭を革のスリッパで踏みにじった。
蛇はピチピチ躍り廻って、一郎の足に巻きついて来たが、頭を踏み砕かれては、おしまいだ。もろくもグッタリと死に絶えてしまった。
一方では二郎と妙子とが、父を蘇生させようと、色々介抱して見たが、善太郎氏は遂に甦らなかった。
「だが、一体この蛇は、どこから入って来たんだろう」
悲歎の数分間が過ぎて、やっと気を取直した二郎が云った。
ドアには少しも隙間がなかった。庭に面した窓のガラス戸は、皆釘づけになっていた。天井の通風孔には、厳重に金網が張りつめてあった。それらを凡て調べて見たが、どこにも破損した箇所はない。
不思議だ。蛇だけならまだしも、蛇の外に人間が入って来た筈だ。そして、善太郎氏の死に切ったのを見届けて、又煙の様に出て行った筈だ。なぜと云って、蛇には横笛も吹けないし、花びらも撒けないからである。
魔術師奥村源造は死んでしまった。彼の死体は共同墓地で腐っている。それにも拘らず、奥村源造は生きているのだ。彼は彼自身の名札を示し、生前と寸分違わぬ不思議の手段によって、敵と狙う玉村氏を殺害したのだ。