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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

そして、私達兄妹を安心させて頂き度いのです。あんな毒薬騒ぎが起る様では、怖くって、オチオチ邸にいることも出来やしませんわ。……その後何か手掛りがございまして? 安心の為に詳しくお話し下さいませんでしょうか」

「そんなに御心配なさらなくても、もう明日からは、決して何事も起りませんよ」

「マア、それでは何か判りましたのね。聞かせて下さいまし。どうか」

妙子は熱心の余り、我を忘れたかの様に、ソファを立って来て、長椅子に明智と膝を並べて腰かけた。

「ね、それを、聞かせて下さいませんか?」

彼女は、さも無邪気らしく、明智の膝に手をかけて、その上によりかかる様に身体をくねらせて、下から、明智の顔を見上げるのだ。

明智は、ピッタリと密着した相手の膝の、すべっこい暖味を感じた。彼自身の膝の上で、グリグリと蠢く相手の指先を感じた。そして、我顔の真下にある彼女の唇から立昇る、なまめかしき薫りを呼吸した。

アア、何という大胆な令嬢であろう。

明智は極度の困惑を感じた。妙子さんは美しいのだ。彼女の身体はなまめかしいのだ。そしてその愛すべき生物が、今彼の膝の上に、身を投げかけているのだ。