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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

で彼は云うのだ。

「それ程僕に手を引かせたければ、ここにたった一つの方法がある」

「それは何だ。それは何だ」

「つまり、君が大使命とやらを思い切るのさ」

「畜生ッ、その広言を忘れるな。望み通り今に息の根をとめてくれるから」

云うかと思うと、スッポリ肉仮面が引込んで、あとの穴へ、向う側から本物の土のお面がはめこまれた。

間もあらせず、ドアが開いて、総勢四人、ドヤドヤと這入って来た。化粧丈けでなく服装まで道化師のだんだら染めを着込んだ怪人物、二人の覆面の男、これ丈けは素顔を現わしたさっきの美しい娘。

道化師は手に不気味な注射器を持ち、覆面の二人は各々ピストルを構えて、明智が身動きでもすれば、ぶっぱなす気勢を示し、娘は何ぜか青ざめて、物悲しげな様子である。

「だが安心するがいい、痛い思いはさせない。この部屋に血を流すのがいやだし、それに、君には何の恨みもないのだから、この注射針で極楽往生をさせてやる。言い残すことはないか。思い返して命を助かる気はないか」

最後の宣告である。危い危い。身は十重二十重に縛りつけられ、二挺のピストルは胸の前に筒口を揃えている。鬼神にあらぬ明智小五郎、如何にして、この絶体絶命の大危難を逃れ得るであろうか。