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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「はい」

と右衛門は穏しく云い、少し離れて草の上へ坐った。

「小次郎や」

と桂子は云った。

「気を悪くしちゃアいけないよ」

「はい」

と小次郎も穏しく云った。

「いいえ何んとも思いはしません」

「ねえ小次郎様」

と囁くような声で、今度は浮藻が話しかけた。

「ではあなたにはママのテコナの……」

(アレいけねえ)

と小次郎は思った。

(またテコナでいじめられるのか。……大鉞で脅かされた後を、テコナでいじめられちゃアやりきれねえ)

でも小次郎の心持ちは、今たいへん寂しいのであった。

兄ともいうべき親しい仲の、また従兄弟の蔵人頼春が、宮方を裏切って武家方へついた。そのために今回の大騒動が起こり、土岐十郎頼兼も死ねば、多治見ノ四郎二郎国長も死んだ。そうして噂による時には、頼春も早瀬も家出をして、行方不明になったという。

で、本来なれば小次郎その者も、土岐一族として討たれて死ぬか、でなければ宮方の裏切り者として、武家方の禄を食むかして、生存しなければならなかったのであるが、あの夜幸い館にいずに、桂子のもとへ来ていたので、そのどちらの身の上ともならず、こうして桂子の一党として、このようにくらすことが出来るようになった。