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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

こう合槌をうったのは、以前は鎌倉の犬飼いであったが、あやまって長崎高資の犬を、自分の犬が食い殺した咎で、右の手を肘から切り取られたと、自称している老乞食であった。

「ナ、何事も辛抱が大事」

こう老乞食は言い足した。

「秘密のところは見たいものさ」

こう云ってニヤニヤ笑ったのは、先刻から顔へ白布を垂らした、若い女の顔を見ようと、横から覗いたり下から覗いたり、いろいろさまざま苦心したが、一向苦心が酬いられず、女の顔が見られないので、すくなからず心をイライラさせている、武士あがりらしい男であった。

左の手の指が五本ともなかった。

他人の女房をとった咎で、女の良人に私刑されたのだと、自慢らしく云っていた。

「向こうの女の前も見たいが、こっちの女の顔も見たいものだ。えい、いっそ!」

と云ったかと思うと、矢庭に白布をひったくろうとした。

とたんに彼は、

「ワッ」

と叫び、あおのけざまにひっくり返った。

女の懐中から菱形をなした、蝮の首が現われて、彼の手を目がけて延びたからであった。

「やったね、アッハッハッ、とうとうやったね」

「あの大将こいつを知らなかったそうな」

「懲りて二度とはやるまいよ」